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2015年 10月 27日

山田風太郎の明治小説(1)~「幕末妖人伝」など~。

 最近山田風太郎の明治小説にハマっている。

 山田風太郎に江藤新平を主人公にした短編があると知り、「この人は江藤をどう描いているのだろう」と興味を持ったのがきっかけ。

 (10代の頃いわゆる“忍法帖もの”を読んだが性的描写や殺し合いのシーンがエグ過ぎて受け付けなかった^_^;。)

 主にAmazonの1円中古本等で購入。
 あらかた読み尽くしてしまったので、読後の感想と共に面白かった作品、特に印象に残った作品を挙げてゆきたいと思う。

「幕末妖人伝」(小学館文庫・時代短編選集1)

 「江藤新平が主人公の短編」はこれに収められているが、タイトルを明記する事自体ネタバレになってしまうのでここでは書かない。



 明治初年に起こった長崎のキリシタン弾圧事件「浦上四番崩れ」に際して佐賀藩からも大隈八太郎(のちの重信)や江藤新平が取り調べに参加していて、九州鎮撫総督・沢宣嘉(のぶよし)三位卿が西勝寺の和尚の入れ知恵で浦上信徒の中心人物・パウロ千助を棄教させるが、江藤の調査によって和尚の悪事が暴かれ「廃仏毀釈」をも推進させる結果となる。

 数年後「初代司法卿」~現在でいう法務大臣・最高裁長官・国家公安委員長~となる江藤の捜査能力が遺憾無く発揮されていてカッコいいっす^^。

 ただラストは「生野の変」での沢三位卿の醜態を嘲笑した江藤に同様の運命が降りかかって来てちょっと皮肉。

 「ヤマトフの逃亡」・・・幕末にこういう人物がいたのは知らなかった。作中での名前は立花久米蔵。

 遠州掛川藩の蘭方医だが大村益次郎ばりの日本人離れした合理主義者で、旗本の子息に治療の順番を守らせて夜鷹(フリーの遊女)を先に診たりして藩内から反感を買い、黒船来航で日本中が騒然とする中優柔不断な藩主を真っ向から批判し牢に入れられるが見事に破獄。

 神出鬼没で藩家老までをも人質に取ったり、藩中をひっくり返す程の大騒ぎを演じた挙句「日本人にはほとほと愛想がつきた!」と捨て台詞を残してオロシヤ船に乗ってロシアへ亡命。

 実際の名は増田甲斎。ロシア名:ウラジミール・ヨシフォヴィチ・ヤマトフ。
 
 サンクトペテルブルグでロシア語を学んだ後、ロシアの外交官として活躍。1870年にはペテルブルク大学初の日本語の講師にまでなっている。(Wikipediaより)

 ・・・ある意味羨ましい人生。

「おれは不知火」・・・これも知らなかった。佐久間象山の息子の話。

 天才思想家・佐久間象山は“人斬り”河上彦斎に白昼メッタ刺しにされて暗殺されたが、象山の一人息子恪二郎(三浦啓之助)は父の仇を討つべく新撰組隊士となり彦斎を求めて探索の旅に出、遂に巡り会って仇を討とうとするも剣の腕が違い過ぎて全く歯が立たず断念。

 彦斎に「もう一度修行してまたかたき討ちに来るか、象山のように偉くなるかしろ」と諭され、その後有為転変の人生を送る。
 新撰組を脱走し、薩摩へ行ったり戊辰戦争に加わって奥州へ行ったり。
 
 終盤皮肉な形で彦斎と“再会”する事になるが、この辺りはフィクションであろう。

 実際の佐久間恪二郎は父譲りの傲慢な性格で、新撰組内でも乱暴狼藉を働き土方や沖田から目を付けられていて、維新後象山の息子である事を利用して司法省に出仕するも警察官と喧嘩を起こし免職になったりして、最後は食あたりで29歳の若さで急死している。

 長嶋○茂と同じで、偉大な父の性格は受け継いでいても才能までは受け継がなかったという処か。
 
「伝馬町から今晩は」・・・こえーよこの高野長英((( ;゚Д゚)))。

 子供の頃読んだ“児童向け偉人伝”とはえらい違い^_^;。

「斬奸状は馬車に乗って」(小学館文庫・時代短編選集2)

 この短編集では虚構・実在織り交ぜた主人公が登場するが、実在にしても知らなかった人物ばかりで改めて作者の博識に恐れ入る。「切腹禁止令」の小野清五郎とか。

「大谷刑部は幕末に死ぬ」・・・この人物も初めて知った。

 大谷刑部というと関ヶ原の戦いで石田三成と共に散った“義の人”大谷吉継を思い浮かべてしまうが、実は江戸時代後期の任侠ヒーロー国定忠治の遺児。

 寺に預けられて僧になるべく修行していた所を忠治の元子分が現れて還俗させられ「侠客の国次親分」として担がれてしまうが、次第に時流に押し流されて「薩摩御用盗」の中心人物となり“大谷刑部国次(くにつぐ)”と名乗る事になる。

 御用盗の末路は周知の通りで、最後は父・国定忠治と同じ磔の刑にされた。

「明治暗黒星」・・・隻腕の美男剣士・伊庭八郎は有名だが、これに弟がいて屈折した生涯を送っていたのは初耳。
 
 伊庭八郎が函館で若くして戦死した後、弟の想太郎は兄の影を引きずって生きる事になる。
 何かというと比べられ、妻にした女にさえ「あんた、兄さんに恥ずかしくないの?」

 ひょんな事から伊庭家に出入りしていた左官屋の倅・浜吉(=星亨)が思いがけず大出世しているのを見かけ、いよいよ劣等感に苛まれて「生き方が気に入らないから」という理由で明治34年(1901)6月21日遂に凶行に及ぶ。

 星亨を刺殺後「天下のためである」と怒号し、斬奸状を読み上げたという。
 無期徒刑となり明治35年(1902)4月24日、小菅監獄に入獄。明治40年(1907)胃ガンのため病死した。享年56。

 星亨は“金権政治の権化”と言われていたが私生活は至って慎ましく、一人の妾も持たず夫人を大切にし、暗殺後明らかになった遺産は1万円余りの借財だけだったという。

「明治かげろう俥」(小学館文庫・時代短編選集3)

「首」・・・「桜田門外の変」で討ち取られた大老・井伊直弼の首が、様々な人間の思惑の中所在を転々とし、最後は“病死”の公儀発表に至るまでの愚かしさ、滑稽さ。
 井伊直弼は良くも悪くも紛れもない「巨人」であった。

「明治かげろう俥」・・・表題作。本書の中ではこれが一番面白かった。

 明治24年(1891)の「大津事件」で来日中のロシア国皇太子ニコライ・アレクサンドロビッチが大津で観光中に警備担当の巡査・津田三蔵にサーベルで斬りつけられて負傷するが、この時津田を取り押さえた2人の人力車夫がいて、名前は北賀市太郎と向畑治三郎。

 2人は一躍『日本の英雄』『有名人』となり、日本政府は彼らに対して報奨金2500円(現代に換算すると約5千万円!)、ロシア政府と合わせて終身年金1036円(現代に換算すると約2千万円!)を下賜したが、分不相応な大金を与えられてしまったが為にその後の人生を大きく狂わされてゆく、という話。

 当時加害者側の家族には人権もプライバシーもあったもんじゃなくて、津田三蔵の一家は「国賊」呼ばわりされ、逃げる様にして帰った故郷でさえ町会で退去する様決議され、病気の母親がいるのにあばら屋に石や馬糞を投げつけられる辺りの描写は悲惨で可哀想過ぎる(´;ω;`)。
「引っ越したくても金は無いのだ」
「引っ越し賃をゆすっておるのか?その手は食わない。国賊にやる追い銭は持たんのじゃ。米びつでも蒲団でも売って金を作ればよかろう」
「だれも、わしたちから物を買ってはくれないのだ!」
「当たり前じゃ。だれが国賊の家財道具などを・・・」
 ・・・「一家心中しろ」と言ってるようなものだ(T_T)。

 そんな中「あたしは国賊の娘でようござんす」と一人毅然として顔を上げ続けていた津田の妹・お葉が印象に残った。

 彼女が北賀市太郎と深い関わりを持ってくる展開はフィクションであろうが、ともかくも故郷で田畑を買って地元の郡会議員に当選するなど堅実な生き方をした北賀とは対照的に、前科者でもあった向畑治三郎は博打と女に明け暮れ、胡散臭い投機話に騙されて巻き上げられたり店を出しては潰したりの繰り返しで有り金を使い果たしてしまい、晩年は紙くず拾いにまで零落してしまうのだが、
「去る三月下旬、付近の少女三名に金品を与えて自宅に連れ込み暴行を加えて負傷せしめたことが発覚し、目下西陣署で取調べ中である。-」(大正14年4月19日付の京都新聞)
 死の3年前に今で言う「援交ジジイ」の様な事をして犯罪者にまで転落して74歳で生を終えたというのは史実。

 人間やっぱり「身の丈に合った生活をするのが一番」って事かいね。

 意外と長くなってしまったので他作品についてはまた別記事で。

   ↓気が向いたらどぞ。
  

by tokkey_0524zet | 2015-10-27 10:39 | 読書 | Trackback | Comments(2)
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Commented by 6315x at 2015-10-27 18:40
良くも悪くも有名人の周辺の人物は
何らかの形で人生の歯車が
微妙に狂ってしまうものなんですね(^_^;)
ダルビッシュ翔がまた逮捕されました(-_-;)
しかも野球賭博の開帳(>_<)
Commented by tokkey_0524zet at 2015-10-27 22:31
なんか美空ひばりとか中森明菜の家族を思い起こしてしまいました^^;。
兄の有も高校時代パチンコ屋で喫煙してるのを写真週刊誌に撮られて「悪ビッシュ」などと呼ばれていましたが、プロ入りしてからは「羽曳野市ダルビッシュ有子ども福祉基金」や「ダルビッシュ有水基金」等を設立して慈善活動もしていますね。


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