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「明治断頭台」(文春文庫)
読み始めて気付いたがこれは「人物伝」ではなく「明治物ミステリー」。 作者が元々はミステリー作家であった事を知らなかったが、読んで納得。 “風太郎本人は明治物の一作である『明治断頭台』を自身のミステリ作品の最高傑作と述べている”というのも頷ける。 江藤新平に付き従って佐賀の役で刑死した香月経五郎の兄(という設定)。 役人の不正を取り締まる太政官弾正台の大巡察。 管轄内で起こった殺人事件を解決するにあたって同役の川路利良と知恵比べを繰り広げる。フランス帰りの知識人だが水干コスプレが大好き。 時代設定は明治2~4年で作中に江藤新平もしばしば登場していて、江藤と川路が鍋島藩邸の香月経四郎の居室を訪ねて、経四郎にフランスから連れ帰った巫女のエスメラルダが飛びついてきて接吻を交わしているところを目撃してドギマギするという江藤ファンからすれば(*/∇\*)キャー!!な場面が。 危うく経四郎の実在を信じる処であったw。 「明治波濤歌」(上)(下)(河出文庫) 六つの中編によるオムニバス連作集。 二編目を読み出して初めて各々の作品に直接の関連性が無い事に気付く(^^ゞ。 この作者には珍しい。 ただ何らかの形で海に関係のある話ばかりで、だからタイトルが「波濤歌」なのか。 例によって歴史上の実在人物が数多登場(榎本武揚、南方熊楠、北村透谷、樋口一葉、黒岩涙香、川路利良、川上音二郎&貞奴、野口英世、森鴎外etc)。彼らが虚実入り混ぜた絡みを繰り広げ様々な事件が起こる。 特に印象に残ったのが「巴里に雪のふるごとく」「からゆき草紙」「横浜オッペケペ」。 「巴里に雪のふるごとく」・・・パリへ司法視察に訪れた川路利良一行が芸者殺人事件に巻き込まれるが、第一発見者がゴーギャンで重要参考人がヴェルレーヌという超豪華な顔ぶれ。 捜査にパリ市警のルコック警部まで乗り出して来て「黄色い下宿人」の夏目漱石vsシャーロック・ホームズを彷彿とさせる。 「警視庁草紙」「明治断頭台」では敵役的存在だった川路が本作では“日本人側探偵”として大活躍。 冒頭であの有名な「列車内での脱糞事件」も描かれていて(笑)、ラストで見事な薩摩示現流をも披露してくれる。 山田風太郎明治小説のキーパーソンは「川路利良」と「益満休之助」だぬ。 「からゆき草紙」・・・樋口一葉が旧知の娘・美登利(「たけくらべ」のヒロイン)が吉原の花魁になる前に人買いに目を付けられてシンガポールへ売り飛ばされそうになるところを(すげートンデモ展開w)黒岩涙香と協力して救い出すべく奔走する。 「涙香が一葉に探偵小説を書くよう勧めた」というエピソードは本当なのだろうか。ありそうな話ではあるけれど。 「横浜オッペケペ」・・・多額の借金から逃れる為にアメリカへ脱出しようとする川上音二郎&貞奴を、貞奴に恋してしまった野口英世(この頃は北里柴三郎の伝染病研究所所員)が偽の伝染病(ペスト)を作り出してどさくさに紛れて借金していた893の追手から川上一座を逃すという話。 作者自身東京医科大学を卒業していて医学の知識がある為か、野口の活躍のさせ方が実に絶妙。 川上音二郎も野口英世も“借金の天才”で“愛すべきエゴイスト”であった点はどこか似通っている。 「エドの舞踏会」(文春文庫) 海軍少佐・山本権兵衛と大山巌夫人・捨松が狂言回しとなって、いわゆる「維新の元勲」~井上馨、伊藤博文、山県有朋、黒田清隆、大隈重信etc~の夫人達を鹿鳴館の舞踏会へ出席する様勧誘して回るというパターンで話が進む。 元勲の夫人は元芸者や女郎上がりが大半で「そんな晴れがましい舞台に自分の様な卑賤の出は似つかわしくない」と尻込みする者が多かったので。 彼女らの目を通して明治新政府の主要人物が語られる。 印象に残ったのは「伊藤博文夫人」「黒田清隆夫人」「大隈重信夫人」の章。 「伊藤博文夫人」・・・博文夫人の梅子は夫の女好きを容認しているが度が過ぎると張り倒したり、顔見知りの芸者を救う為に貿易商の御曹司のお座敷に芸者姿で上がってこれを罵倒して新橋から追い出したりと、総理大臣夫人になっても中身は“姉御肌の鉄火芸者”のままでカッコいいっす^^。 「黒田清隆夫人」・・・黒田清隆は酒乱で酔うと人が変わり、最初の妻を斬殺して二番目の妻・滝子にもDVしてたとかキチガイだな^^;。 同じ薩摩出身の内務卿・大久保利通と川路利良大警視は医者に“病死”と診断させてもみ消してるけど。 人を殺した人間が総理大臣になれる明治という時代の恐ろしさよ((( ;゚Д゚)))。 「大隈重信夫人」・・・この時期の大隈重信は黒田清隆の「北海道開拓使官有物払い下げ事件」を弾劾した為に“第二の江藤新平”視され、政界から追われて私費で早稲田に学校を設立したが、薩摩閥に「大隈は謀叛人の養成学校を作った」とあらぬ噂を流されたり、融資してくれようとする銀行に圧力をかけられたり教授を依頼した学者にも様々な脅しをかけられて窮迫していたという史実を初めて知った。酷い話だ(;д;)。 そんな重信を陰で支える綾子夫人と、一見年食った貧乏書生風の頭山満、来島恒喜(重信に爆弾を投げつけて右足を吹っ飛ばす)との交流。大隈家で作った野菜や沢庵を売り買いしたり、邸内に入れて火鉢にあたらせて焼き芋を食わせたり。 重信も畑で二人と立ち話をして、「あれは近来まれなるたいした奴らだ、うちの学生にもあれだけの男はおらん」とベタ褒め。 数年後政治家として返り咲き“外務大臣とテロリスト”として対峙する事となる皮肉な運命。 彼は何と側近を自刃した来島恒喜の葬儀に参列させており、その後も法要の度に多額の香料を贈り追悼演説までしたそうで、自分を殺そうとした人間を許し称える事の出来る度量の大きさ。 重信の葬儀は「国民葬」で、式には約30万人の一般市民が参列して別れを惜しんだが、3週間後に行われた山県有朋の「国葬」は不人気の為か政府関係者以外は人影もまばらであったという。 なお本作は2007年12月、2008年2月に錦織一清主演(山本権兵衛役)で舞台化されている。 ↓気が向いたらどぞ。
by tokkey_0524zet
| 2015-11-23 20:11
| 読書
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Comments(2)
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6315x at 2015-11-24 07:44
ご無沙汰でした(^_^;)
新聞の書評欄で 山田風太郎箸「秀吉はいつ知ったか」 というのを見かけました('_') 本能寺の変を扱ったもののようですが tokkeyさんは既読ですか(?_?) 松本清張や山崎豊子にも共通する 綿密な取材力と深い洞察力 現実を超えたフィクションという感じですね(^o^)
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tokkey_0524zet at 2015-11-24 12:54
「秀吉はいつ知ったか」は未読です(^^ゞ。
現在明治物をほぼ読み終わって同じ作者の他の時代物(室町など)をぼちぼち読み始めている所。 いずれまたここで紹介したいと思ってます。 山田風太郎は「史実は史実として忠実に踏まえた上で物語を大胆に飛躍させる」という作風で、司馬遼太郎が“表の明治”ならこの人は“裏の明治”。 二人とも“戦中派”で「一歩引いた視点からの人間や歴史への俯瞰」は共通してますね。
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