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「警視庁草紙」(上)(下)(河出文庫)
「明治新政府の川路利良大警視率いる警視庁vs旧幕府の元南町奉行、元同心、元岡っ引&スリの名人の知恵比べ」という構図で次々と事件が起こる。 井上馨、黒田清隆、山県有朋といった有名どころの政治家に加えて藤田五郎(斎藤一)、永倉新八、今井信郎、三遊亭円朝、樋口なつ(一葉)、夏目金之助(漱石)、東条英教(英機の父)、唐人お吉、河竹黙阿弥、幸田成延(露伴)、森林太郎(鴎外)、佐川官兵衛、高橋お伝、和宮、清水の次郎長など多士多彩な面々が絡んでくる。 「幻燈煉瓦街」の章で「尾去沢事件」を揶揄した内容の“のぞきからくり”(幻燈式紙芝居)の製作者としてからくり儀右衛門(田中久重)が登場するが(前年に佐賀の役で刑死した江藤新平を敬愛していて、井上馨一派に一泡吹かせる為からくり師達に協力していた)、最終章「泣く子も黙る抜刀隊」でも再登場。 主人公の元同心・千羽兵四郎と情人・お蝶が警視庁の巡査達から逃亡する為の手段として軽気球を提供してしまうくだりは御都合主義的だなぁとも思ったが、儀右衛門がドラえもん化していて笑ってしまったw。 「万般の機械考案の依頼に応ず」(どんな機械でも考案するから持って来なさい)と看板を掲げて銀座で“よろず製作所”をやっているという設定だったし。 なお本作は平成13年(2001)にNHKで金曜時代劇「山田風太郎 からくり事件帖-警視庁草紙より-」としてドラマ化された(見てないけど)。 主人公の千羽兵四郎に田辺誠一。からくり儀右衛門は先頃亡くなった今福将雄だった。 「幻燈辻馬車」(新潮社刊) 自分としてはこの作者の水準からすると「凡作」「失敗作」の部類に入るのではないかと思ってしまったのだが、人によっては「山風明治小説の最高傑作」という意見もあり、好みの問題もあるのかも知れない。 戊辰戦争で妻・お宵を殺され、西南の役で息子・蔵太郎を亡くした元会津藩町方同心・干潟千兵衛は、残された幼い孫娘・お雛を連れて辻馬車を営んでいる。危機に際して「父(とと)!」とお雛が叫ぶと幽霊の蔵太郎が血みどろの軍服姿で現れて干兵衛達を救い、さらに蔵太郎が呼ぶ形でしかお宵の幽霊は現れないというちょっとややこしい設定^^;。 例によって伊東博文、坪内逍遥、山川健次郎、山川捨松、大山巌、中江兆民、三島通庸(この物語のラスボス)、三遊亭円朝、川上音二郎&貞奴、徳富猪一郎(蘇峰)、田山花袋、尾崎紅葉、川上眉山、坪内逍遙、嘉納治五郎、西郷四郎(姿三四郎のモデル)、志賀直哉といった実在の人物がてんこ盛りで話に絡んで来るが、“反則技”とも言える幽霊を出した時点で違和感を覚えてしまった為か。 「歴史小説」ではなく「伝奇小説」「エンターテインメント」として読めばそれなりに楽しめるとは思う。 時々作中に現れる“戦中派”山田風太郎の視点がユニーク。自由党壮士(過激派)=「赤軍派」で、 彼(干潟千兵衛)の心境は、まあ「赤軍派」の若者を見る「戦中派」に似た気持ちであったといおうか。最後は妻や息子と同じ燐光に包まれて、その「赤軍派」の若者達と運命を共にする為茨城の加波山へ爆裂弾を載せた馬車で向かう老いた千兵衛。 「地の果ての獄」 (上)(下)(文春文庫) 時は明治19年、主人公は北海道の樺戸集治監に赴任したての薩摩出身の青年看守・有馬四郎助(しろすけ)。なのだがいわば“狂言回し”で、そこで繰り広げられる囚人達の極限下での人間模様。 囚人は二人一組で枷に繋がれているが、彼らの間には様々な因縁があった。犯罪を唆した方と唆された方が同じ枷で繋がれていたり。 西南戦争、佐賀の役、加波山事件や秩父事件、戊辰戦争等の敗残者達も集監されていて非常に“濃い”面子。 本作品でも四郎助の同僚に高野襄看守長(山本五十六の実兄)、監獄の教誨師・原胤昭、電信技手として余市に赴任して来た幸田成行(作家になる前の露伴)、益満休之助(?)など多彩な実在の人物が登場するが、自分的に極めつけはクライマックス「大奇蹟」で空知集治監視察に来た石川県令・岩村“キョロマ”高俊が佐賀の役の残党に空知集治監幌内分監内で拉致され箱に閉じ込められ、頭だけ出した状態で散々罵倒される場面。 岩村「外道が逆恨みするか!」この後泥酔した岩村を脅して独房の囚人を釈放させる事に成功、大団円へ。 フィクションとは言え溜飲が下りた^^。 もっとも岩村高俊は傲岸不遜な性格で終生栄達を求め続けていた人だから、実際にこういう事があったとしても犬に噛まれたぐらいにしか思ってなさそうだけど。 「黄色い下宿人」(光文社文庫「シャーロック・ホームズに愛をこめて」所収) 解説によると「日本の作家によるホームズ外伝短編のスタンダードともいうべき傑作で、後人にとっては本編に追いつき追い越せるかが一つの指標となるほどだ」。 作中に「1901年(明治34年)5月上旬の或る火曜日」と記されていたので一応これも「明治小説」に入るかなと(^^ゞ。 【あらすじ】文体がコナン・ドイル(とゆーか訳者)のそれに酷似していて、当時のイギリスの風俗~人気の文学者、スペンサーやらハズリットやらスウィンバーン、詩人のテニスンやらウォーズウォース(ワーズワース)、四輪馬車(ランドウ)やら二輪馬車(ハンサム)、画家ゲーンズボローの「婦人像」とかテレグラフ紙とかスタンダード紙~といった時代考証の実に緻密な事。さすが博識の山風。 「コナン・ドイルがこれを書いた」と言われても殆ど違和感が無い。 ただこの一節と最後のオチに微かだが“風太郎臭”を感じた。 ホームズが小声で私にささやいた。↓気が向いたらどぞ。
by tokkey_0524zet
| 2015-11-01 06:46
| 読書
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