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「王子と乞食」(マーク・トウェイン作/村岡花子訳。岩波文庫刊)を読んだ。
「花子とアン」ブームに乗った訳ではないが小学生の頃「こども世界名作文学全集」で読んだ程度の記憶しか無くどんな話だったか確認しておきたかったので。 ◆60年前赤ちゃん取り違え事件◆ 「似ていない」という違和感は長年お互いの家庭にあった。「王子と乞食」のあらすじは、16世紀半ばのロンドンで同じ日に生まれた男の子がいて、一人はチューダー王朝、ひいてはイギリス全土がの待ち焦がれた待望の跡継ぎエドワード。もう一人はロンドンの裏街で誰からも望まれず(「穀潰しが増えた」ぐらいにしか思われず)貧しい家に生まれたトム・カンティ。 美しい絹としゅすの着物に宝石の飾りを身に付け家来達にかしずかれ何不自由無く育った王子と、ろくでなしの父親に乞食をやらされ稼ぎが少ないと小言を言われ鞭で打たれながら育った少年。 王子に憧れていたトムは一目見てみたいとウエストミンスター宮殿まで行き、門から城内を覗き込んだところたちまち門番に殴られるがそれを気の毒に思った王子がトムを中に入れ、互いの容貌が瓜二つだった事から「ちょっと着物を取り替えてみよう」という事になり、トムが付けられた傷を見咎めた王子がボロを着たままで門番を詰問に行った途端乞食と間違われて放り出される。 ここから二人の冒険と受難の日々が始まる―。 なぜ入れ替わりが成功したかというと、トムは貧困家庭の生まれながら好奇心旺盛で、近所に住むアンドリュー神父から読み書きと若干のラテン語を習っており、空想好きでもあり自分を王子に見立てて友達を近衛兵や侍従、女官や貴婦人と仮想して「宮廷ごっこ」もやっていた。 賢さも持ち合わせていて全くの“野卑な育ち”ではなかったのである。(ちょっとズレた事を言っても周りが「陛下はご病気なのだ」で片付けてしまう。) この辺りは「取り違え事件」で貧しいながら自力で定時制高校を出た“貧乏長男”と被る。 やがて父王であるヘンリー8世が崩御し、トムこと“エドワード6世”が国王となるが、これを知った本物のエドワードは戴冠式を阻止すべくウエストミンスター宮殿へと入ってゆく・・・。 以下ネタバレとなるが、 宮廷の“人を外見でしか判断しない”役人達はエドワードの主張を全く信じようとしなかったが、摂政であるサマセット公はふと思い立ち、エドワードに向かって「大玉璽はどこにあるか?これが答えられれば万事が解決される。」 エドワードは「大玉璽は余の居間の隠し戸棚にある。」と答えたが玉璽はそこには無くいよいよ窮地に陥るが、そこへトム・カンティが「どこにあるか、私はちゃんと知っている。」 着物を取り替えた際テーブルの上に玉璽が乗っていたが、王子はそれを鎧の中に隠して門番を詰問すべく外へ出ていたのである。 かくしてエドワードが真の国王である事が証明されたのだが、「これ、トムよ、そちは余が忘れていた玉璽の場所をどうして覚えていたのだ?」 「陛下、それはなんでもございません。私はたびたびあれを使いましたもの」 「使ったと?それではなぜ、(今まで)あり場所がいえなかったのだ?」 「私はあれをみんなが探しているということを、すこしも存じませんでした。どんな形の物か、誰も説明いたしませんでしたもの」 「では、そちはなにに使ったのだ?」 「―くるみを割るのに使いましてございます!」 城内はなだれの様な大笑い。トムの方が本物の英国王ではないかしら、というような考えを持っていた人が、かりに残っていたとしても、この答えでまったく疑いをなくしてしまった。 そして戴冠式は無事に「正式な国王」のために為されたのだが、幾らそれらしく振舞っていてもこういう所で生まれ落ちた環境による育ちの違いが出てしまうというちょっと皮肉な結末。 マーク・トウェインは最終章「正しき報い」で滝沢馬琴ばりの律儀さで登場人物全てに因果応報を与えている。エドワードやトムに酷い仕打ちをした者には悲惨な最期。正体を知らないながら良くしてくれた者には幸福を。 実在のエドワード6世は短命であった。(作中では触れられていないが)父王から感染させられた先天性梅毒により幼い頃から病弱で「肺に化膿する腫瘍」の為15歳で夭折している。 巻末には村岡花子氏による「訳者のことば」が寄せられているが、それによるとマーク・トウェインは王子のモデルを誰にするかで相当苦心したそうで、最初は15歳頃のエドワード7世を考えていたが、それは余りに畏れ多いというので(同時代の人だし)様々の時代を遡ってあれこれ探した結果、ヘンリー8世の王子エドワード・チューダーに落ち着いたのだという。 読んだ人間にしか分からないがこれは単なる“冒険譚”ではなく身分社会への痛烈な「諷刺」が込められている。 「昔々ある所に幸せな王子様と貧しい乞食の少年がいました」というレベルのおとぎ話では決してない(エドワードとトムが直接話をするシーンでは会話が噛み合わなさ過ぎて笑えたw)。 中世のイギリスを舞台に、実在の人物をモデルに選んだのはフィクションの中にもリアリティーの重みを付加したかったからであろうか。 最後に、作中で印象に残った台詞を。 百姓家で目覚めたエドワードの胸の上に一匹のネズミが乗っていて、 「どうもこれはいい知らせのような気がする。国王の身に生まれて、ネズミの寝台にされるまでに落ちぶれたら、もうどん底まで落ちたわけで、これより下へさがろうにも下れるものではない。そろそろ運が開けて来るような気がしてきた。こういういいしるしを持って来てくれたネズミだもの、こっちから礼をいいたいぐらいだ。」 (この後皿洗いをやらされるw。) ↓気が向いたらどぞ。
by tokkey_0524zet
| 2014-07-25 01:54
| 読書
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Comments(26)
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6315x at 2014-07-25 05:49
トム・ソーヤの冒険の作者だ、程度の知識しかなくて(^^;)
勉強になりました(^o^) 子供の頃は夏休みの読書感想文が 大の苦手で…(-_-;)
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tokkey_0524zet at 2014-07-26 06:47
村上龍が「学生の頃作文の成績が良かったかどうかは、必ずしも文学的才能と直結しない」と言っていましたよ^^。
私もどちらかというと苦手な方でした。
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6315x at 2014-07-26 12:38
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tokkey_0524zet at 2014-07-27 18:36
子供向けのルパンやホームズ物は大抵どこの小学校の図書館にも置いてあって基本かなと(あと明智小五郎物とかw)。
中学・高校時代はエラリー・クイーンと司馬遼にハマっていました(^^ゞ。 清峰はベスト16で九州文化学園に敗退・・・(ToT)/~~~。
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6315x at 2014-07-29 06:23
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tokkey_0524zet at 2014-07-29 08:45
あとハインラインやアシモフのジュブナイルSFとか^^。
石川大会決勝は小松大谷が9回まで8-0とリードしていて9回裏に星稜が9点取って逆転サヨナラ勝ちしましたが、野球漫画でもリアリティーが無さ過ぎてやらなそうな展開に笑いましたwww。
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6315x at 2014-07-30 12:31
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tokkey_0524zet at 2014-07-30 16:15
灰谷健次郎や後藤竜二も好きで読んでいました。
大阪は大阪桐蔭、神奈川は東海大相模に決定。 PL学園や帝京は最近パッとしませんね^^;。横浜は渡辺監督の孫が5番を打っていましたが多少は“縁故登用”もあったんでしょうか。
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6315x at 2014-08-02 12:47
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tokkey_0524zet at 2014-08-02 18:42
長崎日大から阪神に入った野原将志はいつの間にか三菱重工長崎に入ってましたね(◎o◎)。
後藤竜二は児童文学者で「キャプテンはつらいぜ」等の少年野球モノを書いていました。 訳者の村岡花子氏は自身が山梨の貧農の出で、その才を認められて東京のお嬢様学校に入った人ですから本作には色々と思う所があったんじゃないでしょうか。
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6315x at 2014-08-04 12:39
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tokkey_0524zet at 2014-08-04 23:28
金森って阪神にいた短足の人ですよねw。
元ヤクルトの阿井英二郎投手もつくば秀英の野球部監督になって茨城県大会ベスト8まで行って、埼玉の川越東高校でも21世紀枠の候補になってます(現在は日ハムのヘッドコーチ)。 「花子とアン」は何だか白蓮が主人公みたいになってきてますね(笑)。 嘉納伝助さんが男前過ぎて帝大生役の俳優が下手過ぎるせいか(イケメンだけど)蓮子が全てを擲って駆け落ちする程の魅力を感じません^^;。
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6315x at 2014-08-06 22:24
デッドボールに奇声を上げて過剰反応(^^;)
珍プレー大賞を受賞しました(-_-;) 伊藤伝右衛門邸では 毎年、将棋の女流王位戦の対局があります(^o^) 神武以来の天才・加藤一二三九段が バラエティ番組でヒフミン扱いされているとは…(>_<)
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tokkey_0524zet at 2014-08-07 00:20
そういえば東海大相模から阪神にD2位で入った一二三慎太選手は外野手に転向しましたね。
一二三という苗字は熊本・八代にしか無い珍姓だそうですが。
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6315x at 2014-08-08 22:58
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tokkey_0524zet at 2014-08-09 06:54
広島の梵、ロッテの諸積、楽天の聖沢、昔阪急にいた南牟礼などは日本に10世帯もいないんだそうですw。
高校野球は台風の為11日に順延になりましたね(T_T)。
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6315x at 2014-08-10 16:36
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tokkey_0524zet at 2014-08-10 17:47
イチローが引退するという噂がありましたが、トレードを目的としたウエーバーの手続きを取ったそうでちょっとビックリしました;。
豊は確かに多いかも。
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6315x at 2014-08-12 21:06
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tokkey_0524zet at 2014-08-13 04:34
星稜持ってますね~。
佐賀北と広陵が勝ち上がったら2007年決勝の再戦ですねw。
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6315x at 2014-08-14 07:45
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tokkey_0524zet at 2014-08-14 12:48
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6315x at 2014-08-15 09:24
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tokkey_0524zet at 2014-08-15 17:21
海星も玉砕(ToT)/~~~。
こうなったら“琉球のライアン”に期待です。
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6315x at 2014-08-16 12:40
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tokkey_0524zet at 2014-08-16 17:06
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